第4話 リーマンショック、売上7割減の地獄。笑顔を失った私を救った「原点回帰」
給排水工事という新たな武器を手にし、「さあ、ここからだ!」とアクセルを踏み込もうとした矢先、とてつもない大波が容赦なく襲いかかってきました。 2008年9月。アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻――いわゆる「リーマンショック」です。
当初、私は「来年あたりから少し景気が悪くなるのかな」とのんきに構えていました。しかし、波が押し寄せるスピードは予想を遥かに超えていました。 翌10月、大口の現場から「突然ですが、今回のプロジェクトは全面キャンセルで」と一本の電話が入りました。
それを皮切りに、会社の電話がピタリと鳴り止んだのです。 あまりの静けさに、はじめは「電話機が故障しているんじゃないか?」と本気で疑い、自分の携帯から会社の固定電話にかけて確認したほどでした。
流れは一気に悪化し、翌年の決算では売上がなんと7割減。 初めて直面する危機に、私の心は悲壮感と焦りで完全にすさんでいきました。心の余裕を失った私と従業員との間には深い溝ができ、退職者が続出。数ヶ月もの間、自分から笑顔が消えていたことに気づいた時、経営というものの本当の怖さを思い知らされました。 「今までと同じやり方は、もう一切通用しない」
しかし、ここで腐ったら終わりです。私はとにかく行動することにしました。じっと事務所にいても仕事は降ってきません。藁をも掴む思いで、あらゆる会合や展示会へ足を運びました。
そこで運命的な出会いがありました。あるデザイナーの方と出会い、「補助金を活用して、自社オリジナルの商品を開発してみてはどうか」という提案を受けたのです。
「新機軸がダメなら、原点に戻ろう」 そう決意した私は、先代が遺してくれたあの「スカイトイレ」のリニューアルに着手しました。

ここから先の見えない試行錯誤が始まりました。実は、最初に作った第1弾の新型スカイトイレ「スマートスカイ」は失敗に終わっています。補助金が出たこともあり、意気込んでステンレス製の高品質・高コストなものを作ってしまったため、市場のニーズに全く合わなかったのです。
しかし、私は諦めませんでした。その失敗のデータを活かして改良を重ねた第2弾で、なんとか実用的な商品化に成功。この時開発したスカイトイレ「ウィング」は、今でも現場で現役として使用されています。
さらにこの挑戦を機に、社内でシンクやシャワーといった水回り製品を自社製造できる技術と設備が整いました。会社の体質が、単なる「レンタル施工業者」から「モノ作りもいざとなれば出来る会社」へと変わっていきました。
この地獄のようなリーマンショックから、私は大きく2つの教訓を得ました。
ひとつは、既存の事業にしがみつき、同じことを繰り返しているだけでは、いざ大きな時代の変化が起きた時に会社を守れないということです。景気が良い時は今まで通りでも何とかなるかもしれません。しかし、一度大きな波が来れば、変化できない会社は一気に追い込まれてしまいます。だからこそ、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢が必要だと痛感しました。
もうひとつは、企業としての強み、つまり付加価値を持つことの大切さです。価格だけで比べられる仕事を続けている限り、会社はいつまでも消耗戦から抜け出せません。お客様に「この会社に頼みたい」と思っていただくためには、技術、対応力、商品力、提案力など、価格以外で選ばれる理由をつくる必要があります。
その一つの形が、自社商品の開発でした。
ただし、独りよがりに良いものを作っても、お客様には届きません。製品としてのデザイン性、使いやすさ、そして何より現場での徹底した市場調査が欠かせません。ネットの情報だけでは分からない、現場監督や職人の声、困りごと、実際の使われ方。そうした一次情報こそが、商品開発において最も大切な判断材料になると学びました。
リーマンショックのどん底で気づいた「挑戦し続けること」と「付加価値を持つこと」。
この考え方が、後のケイトップの商品開発、そして現在取り組んでいる第三創業への足掛かりとなったのです